Monthly Archives: August 2017

反イバン派

ジミー・モラレス大統領は未だに憲法裁判所の判断についてコメントを出さないまま、あちらやこちらでグループを集めては言い訳支援を要請しているようです。

例えばこの写真。左は副大統領のハフェット・カブレラ、真ん中ジミー大統領、右は教員組合のホビエル・アセベド委員長。昨日、教員組合のデモ行進があったのですが、最終目的地の大統領官邸に着いたと思ったら、今まであんなにカメラから逃げ回っていたジミーが表へ出てきて、このスリーショット。何を考えているんだか。終身委員長らしいホビエルの方がよっぽど強かな政治家なのに、のこのこ出て行く気が知れん。

ちなみにこの時も記者会見みたいなのはなく、ジミーとホビーが一方的にアジ演説をして終わったようです。副大統領は大統領がまた変なことを言ったりやったりしないように見張る子守の役立ったりしてね(と書いてみたが、何だか事実のような気がして笑えない)。

一方のイバン・ベラスケスの方は本日付で声明を出し、支援をしてくれた人々・団体に感謝を述べると同時に「CICIGは今までもそうであったように、これからもグアテマラの法体系を尊重する」と言明し、「今日まで行ってきたのと同様に、CICIGに課せられた任務の実現のために努力する」とこの先も汚職摘発の手をゆるめるつもりはないという態度を明らかにしています。

Donación CICIG (INL)
photo by US Embassy Guatemala on Flickr, licensed under a CC BY-NC-ND 2.0

今年1月のアメリカからの資金援助についての記者会見の写真。左から2番目がテルマ・アルダナ検事総長、その右がイバン・ベラスケスCICIGコミッショナーの強力2トップ。地元に逸材がいないので外国から補強するグアテマラのサッカークラブと同様です。一番右が駐グアテマラ米大使のトッド・ロビンソン。この方も歯に衣かぶせぬストレートな物言いで多くのグアテマラ人(特に国会議員)を怒らせて「追放しろ!」と散々言われた方でしたが、もう間もなく任期満了で帰国されます。

さて、反イバン派は、憲法裁判所の判断の後も何とかしてこの国から追い出そうと画策中。まず与党議員。「憲法裁判所の判断は変則的だ。司法を政治利用し、クーデターを企てている。自分たちには国民の支持がある。イバンは辞任するべきだ」と訳するのに困る意味不明な声明を出しています(個人のメッセージではなく、党として書面に書いた文を読んだはずなのですが)。こんなのが国会議員かと思うと、グアテマラの将来暗すぎる。

土曜日にもまだ反イバン派(巷で囁かれているのは、公務員が支持されて反対運動を行っているのではないかという話。送迎バスでやって来ますからね)のデモが行われる模様。頑固爺のイバンが、そんなことで辞任するとは思えませんが、その気になれば国外に出た後もう入国を許可しないとか、事故に見せかけて暗殺しちゃうとか、グアテマラ風な解決策はいくつもあるわけで。

どんな大物のしっぽ踏んづけたんですか、イバンさん。

まだまだ楽観視するわけにはいかないようです。

正義の種

政治と司法の話が続きますが、もう少し同じテーマで書いていきたいと思います。

Cicig(グアテマラの無処罰問題対策国際委員会)のイバン・ベラスケスコミッショナーとテルマ・アルダナ検事総長の両者が時折口にするのが「司法(正義)は取り引き不可能 (La justicia no es negociable)」という言葉。

いずれも裁判官出身のこの2人、裁判官に多い抑揚のあまりない単調なトーンで話されることが多いのですが、それなのにこの決めセリフをはなぜかビシッと決まって格好いいんですよねぇ。

さて、ジミー・モラレス大統領に対する選挙資金法違反容疑。先週金曜日に検察はCicigと共同でこの容疑について大統領の特権剥奪を求める予備裁判(antejuicio)の請求を行っています。これは2015年の総選挙で政党の党首だった人物、ジミー大統領の他にも、UNEのオルランド・ブランコ、もう解党されてしまったLiderのロベルト・ビジャテの2人も同様。

選挙資金法違反と言うと、寄付金を受け取ったのに記録されていないとか、制限額を超える金額を使ったとか、帳簿が合わないとかそういうもの。オットー・ペレス大統領が汚職組織のボスとして逮捕されたのとは大きな違いがあります。

ですので、ジミー大統領に対する告発について「その程度の事件は後回しにすればいいのに」という声があるのもまた事実です。実際、今朝のラジオ番組では元最高裁判事、元憲法裁判所判事という肩書きの方々が話をされていたのですが、ある方が「今この時期に大統領と対立するなんて愚かな行為だ。巨悪を摘発すべきで、そのために大統領の協力を求める方が良い、そうしたらこんなことにはならなかったのに」と仰っていました。

なるほど、一理あるのかもしれません。

ですが、ジミー大統領については、最高選挙裁判所が告発を行っており、告発を受けた検察は捜査をしないわけにはいきませんよね?2015年の選挙についての告発が2017年になってから行われているのは書類を用意する時間を与えるためであって、督促だって受けてます。十分時間はあったのだから、無視すればどうなるかもわかっていたはず。それなのに無視したのは党でした。テルマ・アルダナは「すでに告発されている大統領が、もし今証拠となる書類を提出した場合はどうなるのか」と尋ねられて「既に法で定められて期限は過ぎている。司法は取り引き不可能」と例の決め台詞をここでさらっと口にしたのでありました。格好いい。

そしてそれよりも思ったのが、これは世代間ギャップなのかもしれない、ということ。この国の司法が機能し出すようになってきたのは本当に近年のことです。というよりは正確に、Cicigにイバン・ベラスケスが来た後のことです(コミッショナー就任は2013年10月)。

それ以前に現役の大統領が汚職で摘発されるどころか、捜査の対象となることもありませんでした。司法と言うのは権力者が認めた限られた範囲の中でのみ存在することが許されていた。当時の判事には現役の大統領に対処する必要がなかった。ある意味では、そういう面倒くさいことに巻き込まれる可能性もなかったのです(この当たりの話、ノマダのマルティン・ロドリゲスがもっと上手く説明しているので、また別の日にご紹介できればと思います)。

その時代に判事をやっていた人にとっては大統領の嫌がることをやるCicigや検察は何やっとんじゃ、という風に見えるのかもしれません。

しかし、イバン以降のグアテマラは変わりました。「法の前には皆平等」という法治国家の大原則が文字通り適用されるようになっている。オットー・ペレス元大統領、ロクサナ・バルデッテイ元副大統領の逮捕はそれを示しています。

イバンとテルマのコンビには、巨悪も小さい悪も悪は悪。イバンは「不法な選挙資金はグアテマラの民主主義における原罪である (El financimiento electoral ilícito es el pecado original de la democracia guatemalteca)」ともコメントしており、悪は小さいうちに絶て!ということなのでしょう。

「司法は取り引き不可能」は、空気を読むことをしないこの2人らしい言葉でもあると思います。それはこの2人が政治家ではなく法曹界の人であるという証左でもあります。

イバン抜きには、やっぱりここまでたどり着くことはできなかった。

やはりそんな風に思う人が、ここ数日イバン支持・反対の両者によるデモの舞台となったCicigのオフィス前に、こんな素敵なメッセージを残していきました。

Guatemala florecerás, aquí se siembra justicia.
(グアテマラは花開く、ここに正義の種がまかれる)

虎の尾を踏んだイバン

ジミー・モラレス大統領がCicig(グアテマラの無処罰問題対策国際委員会)のイバン・ベラスケスコミッショナーをペルソナ・ノン・グラータと宣言、国外追放処分とした件について、これを不当として出されていたベラスケスへの保護請求に関し、グアテマラの憲法裁判所は最終的に「手続きの上で憲法に抵触する行為があった」と判断、保護請求を認める決定を確定しました。これにより、ベラスケスへのペルソナ・ノン・グラータ宣言は取り消されることとなります。

憲法裁判所の判断の根拠は主に2点:

  1. 国外追放命令には大統領の他、閣僚の署名が必要であるが、書面には大統領の署名しかない。(憲法第182条の「国軍総司令官でもある大統領は、国全体の利益を保証し、統一を示すために、閣議または別の場所であっても、常に一人以上の閣僚と行動する」に抵触)
  2. 国連とグアテマラ政府の間で交わされたCicig創設の際の合意書には「トラブルがあった場合には両者間の交渉その他、両者間で解決すると記されており、それに反する。

これにより、この国外追放命令そのものが違法(すなわち無効)となり、大統領は違法行為(憲法違反ですからね)で刑罰を受ける可能性すら出てきたようで、思いっきりのブーメラン。

これが問題の文書。他にも突っ込みどころがあるらしく、例えば文中に「本日8月26日」と書かれているのに最後に記されている日付は27日になっているとか、根拠としている条文が正しくないんじゃないかとか、いろいろ取りざたされていますが、それは置いておいて。

このコピーを見た時、なんで大統領のサインしかないんだろう、とは私も思いました。プロトコルを重んじる外交において、さすがにこれはありえない。国外追放処分と聞いて国連事務総長が腰を抜かしたとか報道されていましたが、むべなるかな。外交音痴どころか外交無知を晒してしまいましたね、ジミーさん。

こちらは昨日政府がフェイスブックのアカウントにアップしたもの。

「憲法秩序を破るような行動は決して支援しない」。ふむ。支援はしないけれど、自分でやるんですね。それにしてもこの写真。。。

さてこの憲法裁判所の判断より少し前なのですが、国連の人権高等弁務官が次のようなステートメントを発表しています。

「グアテマラ政府は汚職摘発の要となっているCicigの活動を妨げるな」。

ここまではっきり言って頂けるとスッキリします。

要は、Cicigと検察の捜査が自分の身に及びそうだと思った誰かが、ジミー自身にも捜査の手が及んでいるタイミングを使ってそそのかしたということなんでしょう。

背後にいるのは、という話で多分グアテマラ人の誰もがまず思い浮かべるのはラテンアメリカ全体をまるっと汚職で染めてしまっているオデブレッチ(Odebrecht)事件。テルマ・アルダナ検事総長も捜査を進めていることを認めていますし、あちらの国でもこちらの国でも選挙や政府の周辺で巨額の汚職が行われているのを見ると、グアテマラでもきっとかなりの大物が出てくるのではないかと思われるからです。

イバンは、今までアンタッチャブルだった誰かさんの虎の尾を踏んでしまった。それが故に「イバン出て行け」というベタなキャンペーンをやらないわけにはいかなかったのでしょう。イバンの身の安全が心配です。

そしてもう一つ心配なのは、大統領。最近は閣僚を集めて信義を誓わせたり、市長を集めて(市長もまたグアテマラではかなりの汚職源と思われるのですが)福音を説いてみたり(え?)、それはともかく、マスコミは完全シャットアウトで記者会見すら行わない。報道官の記者会見も今週は行われておらず、一体この人はどこを向いているのだろうかと心配せずにはいられません。

また大統領とCicig及び検察の間にできた大きな溝。テルマ検事総長は、今朝ラジオ番組に出演していて、「イバンは大統領と話し合う用意があると言っていた」と話していました。残念ながら大統領にはそれだけの度胸はないでしょうが。

心配ばかりしていても仕方がないので、今回の一連の出来事で見つけたメメを貼り付けて、今日のところは終わりにしたいと思います。

https://twitter.com/Gedarar/status/902700828334710784

グアテマラのサッカーを代表するFWカルロス・ルイスの得点シーン、もちろん顔はベラスケス。この写真、昨年(まだFIFAから資格停止処分をくらっていなかった時)のW杯予選、ホームで行われたアメリカ戦ですね。懐かしー。もちろん、ベラスケスのゴールで2−0でCicig勝利。

こちらは説明不要。

https://twitter.com/DaxEa_29/status/902566938336944128

笑っちゃうのが、手前のスパイダーマン。これ、与党議員のフアン・マヌエル・ジョルダーノですが、Dipukid(議員という意味のdiputadoとkidの造語)と呼ばれるお騒がせ議員。酔っ払って騒ぎを起こすわ、家業のプロモーションメールを国内のありとあらゆる市長さんに送りつけちゃうとか、一般人が入れない国会の特別なエリアにブラジル人(だったか)モデルを連れ込んで一緒に写真撮っちゃうとか、常識がある人ならやらないことを平気でやる上、口が軽くてなんでもかんでもとにかく喋る。大統領がマスコミを避けまくってる今でも、マスコミ相手にペラペラペラ。ある意味、とても政治家向きな人ではあります。もっとも、現在職権乱用とか影響力行使その他で告発されているんですが。

それはともかく、ここではいい味出してて、大ウケ。

#GuatemalaSí, #JimmyNo

まだ風邪が治りきらないでいますが、少しはマシになったような気がします。今日は仕事を休んだのですが、明日は行けそうな予感。それにしても昔は風邪ごときで休むとかなかったのですが、年をとるというのはこういうことなのですねぇ。

さてさて、昨日からドタバタのグアテマラです。ジミー・モラレス大統領は「Cicigにはいて欲しい、でもイバン・ベラスケスは困る。Cicigという機関そのものはいい、でもイバンじゃなきゃいけないことはないだろう」というところを落としどころにしたいようです。大統領擁護派のスローガンは#CicigSí, #IvánNo 。

それなら逆も成り立つだろう、ってことで今日のエントリーのタイトルは#GuatemalaSí, #JimmyNoにしてみました(ジミーさんに大統領やめろ、という意味ではありません、念のため)。Cicigにイバンがいなくてもいいように、グアテマラだって別にジミーいなくても良くね?案外その方が良いことあるかもしれないし。

と思うのは、2015年に当時副大統領だったロクサナ・バルデッティが辞任し(後に逮捕)、後任に選出されたアレハンドロ・マルドナドが、後にオットー・ペレスの辞任を受けて大統領になるわけですが、この方がなかなか良い大統領だったので。もっとも、任期わずか5ヶ月未満、何かをするには短すぎたわけですが、その間に起きたカンブライの大規模土砂崩れの際、被災者の側に立っていた姿勢は忘れられません(アレハンドロ・マルドナド大統領 I II III)。自己クーデターでホルヘ・セラノ・エリアスが国外へ亡命した後、同じように国会で選出されたラミロ・デ・レオン・カルピオも、内戦末期の難しい時期を乗り切った人でしたし。そう言えばセラノ・エリアスも汚職やら物価上昇で市民からの抗議運動が続いていたのでしたっけ。

今回のことで、誰よりも株を下げたのはジミー大統領に他ならず、周囲の人の思惑にいいように踊らされているようにしか見えません。いいように使われて捨てられる。私にはプラサ・プーブリカのJimmy se va quedando solo(一人取り残されていくジミー)という記事やノマダのEl día que casi nos fuimos al abismo(崖っぷちに立たされた日)という記事がしっくりきます。ノマダに描かれている通り、自家製の1分44秒のビデオで国をパニックに陥れるなんて、ちょっと他にないでしょう。そしてこのビデオで大統領は孤立していったのでした。

面白かったのは政界ゴシップ記事的なエル・ペルオディコのLa recepción al Presidente(大統領出迎え)。それによれば、ジミー大統領が国連へ直訴に出かけた時、与党の議員らは大統領を空港でヒーローのように迎えようとキャラバンの準備までしていたのだそうです。しかし、コトが思惑通りに運ばなかったのはご存知の通り。(本当にそんなことがうまくいって、国民の支持も得られると思っていたんだろうか。この国の政治家って。。。)

また国連のグテーレス事務総長との会談では、2人きりの会談を希望したものの先方からやんわり断られ、仕方がないのでまずグアテマラの大統領である事の大変さを訴えることから始めたのだとか。「国会は予算の執行を妨害する、だから国内の道路網はズタズタで、教員との合意も実行できない。裁判官は鉱山会社や水力発電会社のラインセンスを取り消してしまい、投資も思うようにいかない。またこの国のインディーズ系なマスコミも困ったものだ」と内政の困りごとを多々あげた後、本題に入ります。同行したカルロス・モラレス外相もビックリの分厚い報告書をグテーレス事務総長に手渡し「イバン・ベラスケスは自分の仕事の範疇を超えたことをしている」とぶち上げたわけです。

事務総長は「じっくり検討する、でも国連もCICIGのドナー国もイバン・ベラスケスの仕事に満足しており、信頼している、グアテマラにとっても大きな利益をもたらしており、国際社会の模範だ」と言ったのでした。グテーレスが「多くの国がCICIGと同様の機関を求めているが、ベラスケスをクローンで作ることはできないから」と締めくくったのが、ジミーを怒らせたのだと。こうして、あのビデオが公表されることになったのですね。(ここまでエル・ペリオディコの記事を元にしています)

今日も大統領支持派、イバン支持派、双方のデモが行われ、まだまだ予断を許さない状況ではあります。大統領がベラスケスを国外追放としたことについて、職権乱用、司法妨害などで5件の告発が行われており、ジミーさんもしばらくは心の休まる時がないのではないかしら。

大統領は辛いんでしょうね、いろいろと。

はだかの大統領

昔むかし、あるところに大統領がいました。大統領は汚職追放を求める市民の声により選ばれたのでしたが、自分が選挙の時に提供された資金を報告するのを忘れていました。いえ、忘れていたというよりは、知っていたけれど「大したことじゃないからいい」と思ったのかもしれません。

そんなある日、その選挙資金報告に不正があるとして、自分の身の回りに捜査の手が及んでいることを聞き、大統領は大変慌ててしまったのでした。

大統領の国には、以前から影の政府のような組織が存在しており、表の政府とは別に地下に潜んで不法行為を行っていたのでした。そのため、この国は国連に「この組織を征伐するのを助けてほしい」とお願いし、こうして国連から不法組織をなんとかするための委員会が派遣されていました。選挙資金の不正については、選挙裁判所が告発したものを検察と、検察をフォローアップしているなんとかするための委員会が共同で捜査に当たっていたのですが、大統領はなんとかするための委員会の委員長に「こともあろうに自分の身辺を捜査するなど、許しがたい」とブチ切れたのでした。

かと言って大統領には委員長に面と向かって「自分のことを捜査するのはやめてくれ」なんて言う度胸はありません。とっても気の小さい人だったからです。大統領の周りにいる人たちも「自分がいつ汚職で摘発されるかもしれない」とビクビクしている人たちばかりでしたので、この機会を逃すはずがありません。「あなたは大統領ではありませんか。この国のことは、あなたが決めればいいのです。国連へ行って、委員長を替えてくれとお願いしてはいかがですか」と忠告したのでした。

もちろん私欲で働く人たちばかりではありません。外務省長官は「大統領、国連の事務総長と会談するのはともかく、国連から選ばれて送られてきている代表を替えてくれと頼むのは、穏やかなことではありません」。しかし大統領は、自分に手錠がかけられ、拘置所へ行く姿を想像しただけで耐えられなかったのでした。なぜなら、大統領が告発されている罪は事実だったからです。

こうして大統領は国連へ行き、事務総長との会談を行いました。しかし事務総長からは「これからも委員会と委員長を支援する」という言葉以外は引き出せなかったのでした。

帰国した大統領は「自分は大統領だ、自分がやりたいようにやればいいんだ」という側近の言葉を反芻し、どうするかを考えました。まず、国連事務総長との会談をセットした外務省長官をクビにしました。そしてその日の内にビデオを録画し、次の日の朝6時にSNSで公開するようにと命令を下したのでした。

 

翌朝公開されたビデオは大統領が委員長をペルソナ・ノン・グラータと宣言し、即刻退去を求めるものでした。こうして朝から大統領を支持する人、委員長を支持する人でこの国は2つに分かれました。それぞれが思い思いにプラカードや国旗を手に、委員会事務所前やこの国の中央広場に集まったのでした。

閣僚の中には「長官として残ることは、汚職に手を貸すことになるから」と辞任する者もおりました。市民の中には大統領の決定を止めようと、憲法裁判所に保護請求を求める者もおりました。週末であったにもかかわらず招集された憲法裁判所は、この請求を認め、正式な決定までの間、国外追放を一時停止とすることを決定しました。

「ボクは大統領だ、ボクに決定権があるんだ」と怒った大統領は閣僚を招集し、その後「委員長は国内問題に口を出しすぎるからペルソナ・ノン・グラータと宣言した」と政府のカメラの前で言いました。この間、大統領は記者会見も行わなければ、市民の前に姿を現すこともありませんでした。大統領の報道官もどこかに潜んだままでした。

 

広場では大統領の辞任を求める人たちが国歌を歌っていました。一方、委員長がいなくなればいいと思っていた人たちは、思い思いに祝杯をあげていました。

こうして市民の声に耳を貸さなくなった大統領は、悪意のある人たちに利用されたまま、一人取り残されたのでした。


 

書きたいことは多々あるのですが、熱が下がらないのでこの辺で。

今朝がた、大統領がビデオでCICIGのイバン・ベラスケスをペルソナ・ノン・グラータと宣言した時は、この人、もう既に正気を失っていると思ったのですが、人間って追い込まれるとこうなのでしょうか。それとも、誰かに脅されているとかね?まさか???

【追記】

明日、大統領に抗議し、CICIGを支援するためにサン・カルロス大学の学生が招集されています。この動きそのものは良いと思うのですが、息子がこの大学の大学生なので母親としてはいささか心配です。2年前と同様、整然とした、平和裡の抗議行動であってくれると良いのですが。

大統領の不逮捕特権剥奪請求

今日はちょっと風邪気味で、早く寝るべきなのでしょうが、待ちに待ったジミー大統領と国連のグテーレス事務総長との会談があるってだけでなく、検察がジミー大統領の不逮捕特権剥奪を請求するという、非常に濃い1日となってしまったので、書かずに寝るわけにはいきません。

というわけでサラサラと流れるお茶漬けのように書き留めておこうかと思います。

ジミー大統領とグテーレス事務総長の会談は、本日アメリカ東部時間の17時、グアテマラの15時に行われました。

グアテマラ政府のアカウントで実況中継(だったのか?)。同行していた誰かがツイート担当してたみたいです。

細くて長ーーーいテーブルの向こう側が国連、こっち側がグアテマラ。何となくお見合いっぽい雰囲気です。男性ばかりだけど(笑)

さて、問題は席上、一体何が話されたのかということですよね。これがいろいろと情報が錯綜していて謎ではありますが。

まず、国連筋から「同席したカルロス・モラレス外相がCicigのイバン・ベラスケスの更迭を求めたようだ」との情報が流れています。これについて、モラレス外相は「自分は冗談でもベラスケスを更迭してくれなんて頼んだりしない」と正面から否定。ふむ、この言葉は外相ではない他の誰かが更迭を要求した、と読むべきなんですかね。

他の国連関係者は「ベラスケスについての苦情はあった。それを言ったのは外相ではなかった」のだそうです。上の写真を見る限り、双方とも4人ずつで会談していたようですから、苦情を言う人は限られているし、情報を漏らす人も限られているわけで、なんつーか、分かりやすい世界です。なお、会談時間は45分程度であったと伝えられています。

会談後にグアテマラ政府が大統領の意向を汲んで出したステートメントがこちら。

これによれば、今日のテーマは移民、難民、麻薬であり、Cicigについては「任務はここまで、と線引きしてほしい」と依頼したのだとか。また今般の国連での会談に関連して「司法を政治ショーとして扱ったり、フェイクニュースがあったことを憂慮している」とも書かれています。ふむ、私的旅行ならともかく、これは公的訪問なのだから、政府は情報を提供すべきで隠そうとするからこんなことになるんだと思うけれどな。てか、フェイクニュースって(笑)

こうして、ジミー大統領がグテーレス事務総長に不平不満をぶちまけていた頃、グアテマラではCicigと検察が記者会見なんかをしていたりしました。

2015年総選挙時、ジミーさんが所属するFCN-Nacion党から提出された報告書は不完全であり選挙資金規制法に抵触すること、提出された報告書と実際の銀行口座の金額が合致しないこと(報告されていない収入があった)などがその理由で、ジミーさんは当時、同党の党首だったのですよね。

これが先日来囁かれていた、「ジミー本人の周囲に捜査の手が及んでいる」という話の内容なのであります。ジミー大統領が「Cicigの任務の線引きを」と求めたのは、「汚職についてはCicigが担当しなくてもいいでしょ」と言いたいのだと思うのですが、もともとこの不正行為については最高選挙裁判所が検察に告発したものですし、告発を受けて検察がCicigの手助けを求めたのならば、いささかの越権行為も存在していません。

てか、これでは自分の周囲に捜査が及んでいるから直訴に行ったんだって、誰もが思わずにはいられないじゃないですか。オットー・ペレス政権が汚職で倒れたのを目の前で見、「盗みも汚職もしない」と宣言していた割には、ガードが甘すぎる。脱税行為ではなく、選挙資金だから問題ないと思ったのか、気づきさえもしなかったのか。実際のところ、選挙資金については以前の選挙でも同様の不正があったのですが、告発すらされていませんでした。時代は変わったんだということを理解できないような政治家に国政を任せているのか、グアテマラは。まったくもう。。。

不逮捕特権の請求を受けて、裁判所は書類を国会に送致、国会で特別委員会が選出され、不逮捕特権剥奪の可否を判断します。

それにしても、ジミーさんはちゃんとグアテマラに帰ってくるのかな。このままトンズラとか、いや、それはないと思うけれど。

汚職容疑で逮捕されたオットー・ペレスは、自身に対する不逮捕特権剥奪請求が提出された後、辞任したのでした。さて、ジミー・モラレスの次の一手は何だろう。

 

ジミー大統領、国連へ行く

ジミー・モラレス大統領は今朝方、何事もなかったかのようにいそいそとニューヨークへと旅立ちました。これだけ国民を上へ下へと走らせておいて、一言も発言なし。ちょっと酷くない?とは思うものの、ま、ジミーさんですから。

明日の17時に予定されているグテーレス国連事務総長との会談をきっと心待ちにしているに違いない。

と思っていたらこんなニュースが。

スペイン語の国連ニュースのツイートによると、「アントニオ・グテーレスはイスラエルとパレスティナ歴訪の前に、明日金曜日クウェートを訪問する」。

えっ。

ひょっとしてジミー、国連事務総長に見捨てられたのか。。。?

ツイ元は国連報道官のようなので、報道官のアカウントも見てみたのですが、こちらにはメンションなし。スペイン語アカウントのみでの発表です。

当然グアテマラ方面からはこのアカウントに「ジミーとのアポはどうなった」という質問が殺到?したようです。

「事務総長の報道官は、明日モラレス大統領と会うと言っているよ!」との明快ながらも疑問を残すお返事。事務総長は午後出発するとのことなので、アポの時間が変更になったのか、それとも報道官がジミーさんと面会するのか、何なの?

ま、明日になったらわかるからいいっか。。。

一方、CICIGのイバン・ベラスケスを支援する市民らが、大統領不在の官邸付近に集まり、#IvanSeQueda(イバンは残る)キャンペーンを開始。ついでに#FueraJimmy(出て行けジミー)というメッセージも散見されますが、昨日の呼びかけで今日の18時という、誰にとってもあまり都合の良くない時間であったにもかかわらず、かなりの人が集まったようです。そして今週の土曜日にももう一度抗議集会が呼びかけられています。

当然、2年前に当時のオットー・ペレス大統領を辞任に追い込んだ市民活動が思い出されます。2015年8月27日に憲法広場を埋め尽くした人、人、人の波(過去記事を参照)。あの大集会の結果、オットー・ペレスは辞任(後に逮捕)、ジミー・モラレスが大逆転で大統領になったのでありました。あれからちょうど2年です。

外野で見ている私みたいな人間にとって、楽しそうなストーリーはこんな感じ。

グテーレスさんは汚職色に染まったジミーに会う気はなくて、アポをすっぽかし、別の人に会談を任せる。アテが外れたジミーさん、それでも必死に「イバンときたら、ボクのことまで逮捕する気でいるんだ、でもボクがやったことじゃない、政党の人がやったことなのに、党首だったってだけで責任を取らないといけないなんて。見逃してくれてもいいと思わない?ねぇ、イバンを何とかして」ととにかく泣きつく。

相手をしている人もいい加減愛想が尽きて、「よしよしわかった、事務総長にはちゃんと話しておくから、今度はいきなりアポとってやってくるんじゃなくて、文書で送ってくれる?」とさりげなく釘を刺して送り出す。

絶望したジミーさん、もうグアテマラには帰るまいと決心する。行く先はどこでもいい。とりあえずアマゾンとかだったら逃げ切れるんじゃないか?というわけで、国会に当てた手紙を書き始める。「イバンのせいで辞任することにしました。あとは任せた」。任せられた副大統領はいい迷惑。一方のジミーさんはスタコラサッサと新天地を求めて旅を続けるのでありました。(完)

さて、先が読めないジミー劇場、明日は一体何をしてくれるんだろう。楽しくもあり、怖くもある。。。