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イドロ・サンタ・クルス V 非常事態宣言

面倒くさいので皆まとめて「非常事態宣言」と書いていますが、グアテマラにはこの「非常事態宣言」には確か4種類くらいあり、2012年5月にサンタ・クルス・バリーヤスを対象に発出されたものはEstado de Sitio、estadoはこの場合「状態」、sitioは「封鎖」とか「隔離」とか「占領」とか、そんな意味合いを持っています。憲法で保障されている権利が、何らかの事情により脅かされている場合や国の安全が脅かされている場合に、これを元の状態に戻すために一旦憲法で保障されている権利を停止するのがこれ。毒をもって毒を制するみたいなものでしょうか。

政府は非常事態宣言とともに警官400人と国軍兵士500人をバリーヤスに派遣し、5月2日と3日の両日で14人を逮捕します。5月1日の暴動(イドロ・サンタ・クルスの施設への放火)に加担したという容疑で逮捕状が出ていたのは23人。この人数は後に33人にまで増えます。

他方、この暴動のきっかけとなったアンドレス・フランシスコ殺害及び他の2人の傷害事件については、この時点では容疑者は浮かんですらいませんでした。

この非常事態宣言が「治安回復」という名の「水力発電会社保護」であったのは明らかで、同社への反対運動は政府により犯罪扱いされる結果となってしまいます。

バリーヤスの物語は、グアテマラのあちらこちらで繰り返されてきた物語でもあります。とある企業が自分の会社の利益のためにプランテーションを作ったり、鉱山を掘ったり、施設の建設を行う。しかしこの際、地元住民の意向など一顧だにしません。

それでも住民が通常とおりの生活を送れるのなら問題になることはないのでしょう。そうではなく、川の水が涸れたり汚染されたりして住民の生活が脅かされてしまう。このような状況で黙って受け入れろ、という方が無理でしょう。

住民の全員が反対というわけではないにせよ、バリーヤスでは多くの住民が反対運動に参加しています。市当局は対話の席を設けようとしていますが、国は住民の声に耳を傾けないまま、反対運動を阻止してしまった。そしてマスコミは政府当局の発表をそのまま報道するのみです。

各方面から批判を受けたこの非常事態宣言は、5月18日をもって打ち切りとなります。しかしバリーヤスの日常は戻って来ない。逮捕された住民は拘留され、町では兵士が日夜パトロールを行っている。

国が守るべきなのは私企業か住民か。

本来なら両者とも、なのでしょうが。

イドロ・サンタ・クルス IV 高まる緊張

2009年、イドロ・サンタ・クルス社はバリーヤス市の開発審議会(COMUDE: Consejo Municipal de Desarrollo)に水力発電プロジェクトを提出しますが、COMUDEはこの計画を拒否。2011年4月にもカンバラン川沿いでの水力発電所建設計画を提出するものの、COMUDEは再度拒否。同年7月には市長、住民代表も出席した会合で、再々度拒否の決定が下されています。

ところが会社側はそのような状況下で、発電所建設ための重機を搬入したため住民側は反発。両者の間の緊張が高まり、11月には同社の倉庫への放火事件が発生します。

プレンサ・リブレ紙はこの事件について次のように伝えています。

「ウエウエテナンゴ県サンタ・クルス・バリーヤスの住民らが、昨夜ポサ・ペルデのイドロ・サンタ・クルス社の倉庫2ヶ所に放火し、重機が焼失した。同社は水力発電所建設を実施する予定であるが、住民らはこれに反対している」

「去る(11月)16日水曜日3時、多くの共同体の農民ら数千人が水力発電所プロジェクトに抗議を行った。その時は警備員13人が同社の警備を行っていた」

「その日の午後、同社の警備員13人は住民らに捕らえられ、武器を奪われた。しかし警備員らは殴られたり縛られたりすることはなく、むしろ食事を与えられたという」

「夜になってから住民らはポサ・ベルデにある倉庫2ヶ所に放火し重機が焼失した。警備員らはポサ・ベルデから4kmほどのバリーヤスの市街地で解放された」

「17日未明、住民がポサ・ベルデの施設を占拠したため、警官隊がバリーヤスに派遣された」。

その後どうなったかという記事は見つけられなかったのですが、住民による抗議行動はこの時に限らず、年が明け、新市長が就任した後の2012年3月にも同様の放火事件が発生しています。

そして5月1日。この日はバリーヤスのお祭りでした。そんな日に、バリーヤスから自分達の共同体へと向かっていたアンドレス・フランシスコ・ミゲル、パブロ・アントニオ・パブロ、エステバン・ベルナベの3人が走ってきた車から撃たれ、アンドレス・フランシスコが死亡、残る2人が負傷します。パブロ・アントニオは反対派のリーダーの一人で、イドロ・サンタ・クルス社への土地の売却を拒否していた人でもあります。

住民らはこれをイドロ・サンタ・クルスの仕業であると見なし、その日の内に5,000人とも言われる住民が同社の警備員を探し回ります。警備員を見つけられなかった住民らは、同地にある国軍の駐留地に隠れているとの噂を聞きつけて押し寄せたものの見つけることができず、武器を奪っていったのでした。

後に、この殺人及び傷害事件は、イドロ・サンタ・クルス社の警備員2人が容疑者として逮捕されています。1人は警備の責任者、もう1人は元軍人でした。

この暴動の後、中央政府(当時はオットー・ペレス・モリナ大統領)はバリーヤスに30日間の非常事態宣言(Estado de Sitio)を出し、警官400人と国軍兵士200人を派遣したのでした。

イドロ・サンタ・クルス III 発端

ウエウエテナンゴ県はマヤ系の中でも多くの民族が混在しているところですが、サンタ・クルス・バリーヤスは元々カンホバル族(Q’anjob’al)の土地でした。面積は1,112平方キロでウエウエテナンゴ県内では最大。標高は1,450mですが、北部は標高は低く、暑い地域となります。

この地に水力発電所の建設計画が持ち上がったのは2007年のことだそうです。スペインのエコエネル(ecoener)社は再生可能エネルギーを利用した発電事業を行っている会社ですが、海外でも事業を展開しているようです。

グアテマラの電力事情について簡単に触れておきますと、1990年代前半までは国営事業だったのですが、1996年(アルスー大統領時代)に「電力基本法」が制定され、これにより電力事業への民間参入を容易にしたのでした。現在、発電は国と民間の両社によりますが、送電、売電は民間企業となっています。価格は国の機関である電力委員会(という名前だったかな)が3ヶ月ごとに改正するシステム。民営化されたことで電力供給は以前より安定していると私は思うのですが(グアテマラに来た年ちょうど水不足の年だったため、いきなり結構な計画停電を体験したのが未だに強烈な思い出です)、一方で電力消費の少ない世帯層からは電気の価格と不安定な供給に不満も多く、もう一度国営化してほしいと要望の多い分野でもあります。

さて、バリーヤスに水力発電所ができるらしい、と聞いた住民は当然不安に思います。電気事業への新規参入はエネルギー鉱山省の管轄になりますが、同省から地元へは何の連絡もなく免許が出されてしまい、住民たちは一体どんな発電所になるのかもわからず仕舞い。過去に、アルタ・ベラパス県にチクソイダムという国内最大規模のダムと発電所が建設された時、住んでいた人たちが土地を追われるなどしたことがあっただけに、同じような目にあうのではないかという不安は当然募ります。

そこで住民らは2007年6月23日に住民投票を実施します。住民13万人のこの町で、投票したのは46,490人、この内実に46,481人が発電所に反対票を投じたのでした。

なお、この住民投票(Consultas Comunitarias de Buena Fe)は先住民族が伝統的に実施してきた方法で、その効力は憲法、条例、さらには国連の先住民族の権利に関する宣言等で保障されているものです。

しかし、この投票にもかかわらず、発電所計画は着々と進んでいったのでした。

イドロ・サンタ・クルス II 位置

ウエウエテナンゴ県はグアテマラの北東部に位置しますが、サンタ・クルス・バリーヤス(Santa Cruz Barillas)は同県の北部にあります。以前取り上げたイシュキシスよりは南、北部横断道沿いになります。

上の地図の赤いマーカーがバリーヤス、青いマーカーはスペインのエコエネル社が水力発電ダムを進めているカンバラン川。市街地のすぐ側を流れている小さな川です。ズームアウトして頂ければ、国内の位置関係がわかるかと。

この町を二分することとなった水力発電ダム計画は2007年に始まり、今もなお対立が続いているといいます。

今日は遅くなってしまったので、ここまでにして、次回からこの話を取り上げていきたいと思います。

イドロ・サンタ・クルス I でっち上げられた犯罪

今年の6月に摘発された政治汚職、Cooptación del Estadoと命名されているのですが、これって「政府みんなグル」とでも訳せばいいんでしょうか。ざっと説明すると、2011年の総選挙の時に政治献金をたんまりプレゼントした代わりに、オットー・ペレスが大統領になった時に多額の契約を受注するという贈収賄事件のことで、政府高官(元正副大統領含む)から銀行家、マスコミの大物、その他をまきこんで逮捕されたのはのべ57人(これ以外に指名手配中が数名)。

この57人を起訴するかどうかを決定するための予審が先月からハイリスクB裁判所で行われていたのですが、これだけ多くの経済犯が逮捕されたのは始めてのこと。当然容疑者の皆さんも1人ずつ証言しますから、一ヶ月以上かけて本日結審しました。4人が証拠不十分で不起訴、53人については起訴相当。

予審の間、容疑者らの弁護人は「既に犯罪者扱いされており、憲法で保障されている推定無罪が容疑者には適用されていない、人権侵害だ」と主張しており、それってつまり、他に反証できるネタがないってこと?と思ったのですが、同時にオットー・ペレスがまだ大統領であった頃にウエウエテナンゴで起きた事件のことを思い出しました。

ウエウエテナンゴ県北部のサンタ・クルス・バリーヤスで水力発電所に反対していた地元住民が暴動を起こしたとの容疑で逮捕され、先週から公判が開かれていたのですが、この裁判は先日結審し、起訴されていた7人はいずれも無罪放免となりました。

もともと物証の乏しかった事件で、刑事事件というよりも政治的な意図があって水力発電に反対している住民らが逮捕されたのではないかと見られていました。邪魔者を排除してプロジェクトを進める。この水力発電はスペイン資本なのですが、外資を呼び込みたい国の思惑も働いたのかもしれません。

というわけで、これからサンタ・クルス・バリーヤスについて書いていこうかと思います。バリーヤスと同じ問題を持つイシュキシスについてのエントリーも参考にして頂けると嬉しいです(最果てへの旅 I, II, III, IV, V)。