Category Archives: マヤ族

民族

警官の過剰な力の行使により亡くなられたジョージ・フロイドさんのニュースが世界を駆け巡り、民族差別への反対の声が強まっておりますね。

黒人と白人の対立という人種による対立がメインなアメリカとは異なり、グアテマラは白人対混血対先住民的対立があり、先住民の中でも民族により温度差があり、加えてここに黒人も入ってくるという複雑な民族対立的図式となっています。

ラテンアメリカは一般に白人と先住民の混血をメスティソ(Mestizo)と呼びますが、この言葉はグアテマラでは使われません。植民地時代に歴史を遡ると、メスティソのみならず、ムラート、サンボ、ネグロなど色々な呼称がされていたようです。この中で、スペイン語を覚えカトリック教会を受け入れた者がラディーノ(Ladino)と呼ばれるようになり、この呼称が現在でも使用されているのだそうです。

一昨年人口調査が行われましたが、アンケートで最初にある設問は「民族」。選択肢はラディーノ、マヤ、シンカ、ガリフナ、その他だったかな。白人という選択肢もあったかもですが。この回答はDNA的なものというよりは文化的なもののようで、自分がどこに属すると感じるかを選択するらしい(笑)。マヤ系であっても故郷を離れ、都会で暮らすとラディーノになってしまう。でもですよ。ラディーノという民族は存在するのか?

民族って何なんでしょうねぇ(しみじみ)。

実は…。土曜日でしたか、ペテン県でマヤのケクチ族の長老的立場の方が、村の住民の手にかかり殺されるという事件がありました。

正確に書くと、生きたままガソリンをかけられ、火をつけられて焼き殺された。実行犯は今日になって逮捕されていますが、「父親を呪い殺された」と主張する20代の男性と兄弟親戚らでありました。

亡くなったドミンゴ・チョクはグアテマラのバジェ大学や海外の大学の研究にも協力して来た人で、薬草による治癒も行っていました。最初の報道では「魔術を行なった」ために殺されたとなっていて、頭の中がはてなマークで一杯になったのですが、呪いをかけたと思われたのですね。それにしても…。

先住民の多い地域で時折住民裁判により犯罪を犯したとされる人が同様に殺されるリンチ事件は今でも時々あるグアテマラですが、この事件が特異なのは、そのような住民裁判があったわけでもなければ、周りの住民が止めようとしたわけでもなかったこと。未だに謎が多いです。

同族同士での無理解あるいは誤解に基づく憎悪犯罪が存在する。民族が、とか人種が、とかに至る以前の深淵を見たような気持ちになります。

3人の大学生の死と大学と鉱山会社 その1

大学のフィールドワークに訪れていた学生3人がイサバル湖で亡くなったのは2012年3月31日のことでした。この事件(事故?)では、学生らの指導にあたっていた生物学者レムエル・バイエが過失致死容疑で逮捕されていましたが、7年を経て現在裁判が進行中です。

当時も今も、3人の死を巡る事実関係は明らかとなっていません。大学、フィールドワークの現場となっていたグアテマラ・ニッケル・カンパニー(CGN)は学生らが酒に酔っていたから事故を起こしたのだと主張したいようですし、被害者の家族の事実解明を求める声とは対照的に、何度も裁判の延期を図ってきました。

どうもこの鉱山は昔から色々とトラブルの元となっていました。

CGNは当時も現在もSolway Investment Groupというロシアの鉱山会社が所有していますが、元々、その地はケクチ族のものでした。そこにどうやら鉱床があるらしい、ということがわかったのが1950年頃。関心を示したのはカナダのInternational Nickel Company (INCO)で、グアテマラに子会社としてExplotaciones y Exploraciones Mineras de IZABAL (EXMIBAL)を設立し、政府に働きかけて土地の接収を企てます。

1970年にはEXMIBALへの反対運動も激しかったようですが、反対派のメンバーが襲われ、殺されるといった事件があり、政府は1971年、EXMIBALに40年の採掘調査権を認めたのでした。

1979年にオイルショックが起こり石油の価格は高騰、一方でニッケルの価格は下落したため、1981年にEXMIBALは操業を停止。そして2003年、INCOはやはりカナダのGeostar Metals, Inc.にEXMIBALの採掘調査権を売却し、採掘が再開。

今調べていた限りでは、CGNの創立がいつのことだったのかは判然としないのですが、カナダの親会社がグアテマラでの操業のためにこの頃に設立し、調査採掘権をCGN名義にしたのではないかと想像します。

そして2008年には同じくカナダのHudbay MineralsがCGNを買収、フェニックス・プロジェクトと名付けられたニッケル採掘が始まります。

というところで、一旦おしまい。さて、続きはいつになることやら。。。

母語の日

2月21日は国際母語デー(International Mother Language Day)なんだそうで。母語と文化の多様性の尊重、加えて多言語の使用の推進を目的としてユネスコが定めた国際デーの一つです。

上記のデータでは、現在世界で話されている言語は7016。エスノローグによれば本年7097言語だそうですが、方言やバリエーションをカウントすると膨大な数になりそうです。

大陸ごとに分けると

  • アメリカ: 1060言語
  • ヨーロッパ: 285言語
  • アフリカ: 2146言語
  • アジア: 2303言語
  • オセアニア: 1312言語

やっぱりアジアは多いですが、逆にヨーロッパの少なさが目を引きます。昔むかしはあったであろう言語が淘汰されてしまったのでしょうね。

目を引くのは、アメリカ大陸の1060言語の内、60.4%が絶滅の危機にあるということ。言語が話し続けられるためには10万人が必要だと言われていますが、現存するマヤ系言語30の内、10万人以上を擁するのは9言語程度です。マヤだけどその言語を話さない人もいますから、人口の少ない言語はあっという間に話されなくなってしまうのかも。そうするとスペイン語が母語の人がもっと増えるのかもしれないな。

母語は自分が自由に読んだり話したりするだけではなく、感情や思想を操るものでもあれば、アイデンティティーや文化にまで至るものでもあります。無くならないで欲しいとは思うものの、「保存」という名目で強制するわけにもいかないですし。無くなるのもまた自然、ということなのでしょうか。

マリアは差別用語?

マリア・チューラ(María Chula)と言えば、普通に「かわいいマリア」という意味だと思っていたのですが、この名前をつけた民族衣装のオンラインショップが「先住民差別に当たる」と告発され、経営者が公式に謝罪をした、というニュースがありました。

告発したのはグアテマラの先住民族に対する民族差別廃絶のための大統領諮問委員会(CODISRA: Comisión Presidencial contra la Discriminación y el Racismo contra los Pueblos Indígenas en Guatemala)というやたらと長い名前の機関。2002年、アルフォンソ・ポルティーヨが大統領だった時に先住民差別の撲滅を目標としてつくられています。

Codisraによれば、「マリア」というのは「民族衣装を着た先住民女性を呼ぶのに使われる蔑称」であり「チューラ」は「女中として働く先住民女性を見下した呼称」なのだとか。

えっ!!!と驚いたのは私だけではなかったようで、昨日はグアテマラ方面のSNSはこの話題で持ちきりでした。「自分の名前が差別用語だとは知らなかった」というマリアさん多々で、ひょっとしてグアテマラではマリアという名前はもう使えなくなっちゃうんじゃないかとか。

このオンラインショップのオーナーはマリア・アンドレアさん。店の名は自分の名前であり、チューラは美しいグアテマラ女性という意味で使ったのだと公式謝罪の場で説明しています。ふむ、オーナー自らが、「かわいいマリア」と自分のことを言ったのだとしたら、それはそれでどうなのかという気もちょっとするけれど。

このニュースに関連するコメントは多すぎてちらりとしか読めてないのですが、その大半はCodisraの決定を「大袈裟」「謝罪する必要ない」としているものでしたが、中には「自分もマリアと呼ばれたことがある」と書いている人もいました。

先住民女性をまとめて「マリア」と呼ぶってのは、「プラダを着た悪魔」でミランダがアシスタントをとりあえず「エミリー」と呼ん出るのにちょっと似てるかも、ってちょっと思いました。グアテマラ人の一部だけが使っている表現を差別用語と定義してしまうのは、まずかったのではないかと個人的には思います。多くの、実に多くの人が「そんな意味だとは知らなかった」のに、ご丁寧に「マリアという言葉は差別的に使うことができる」と広報してしまった、つまり寝た子を起こしてしまったのではないかと。

そしてまた、マリア・アンドレアが先住民であれば当然このような告発は行われなかったでしょう。マリア・チューラで販売しているのは民族衣装風ではありますが、デザインはもうちょっとモダンです。そういう部分でも反発を受けたのかもしれません。

グアテマラに限らず、ラテンアメリカは名前ではなくあだ名で相手を呼ぶことも多く、私なんかが「チナ」「チニータ」(いずれも中国人の意味)と呼ばれるのはごく普通で、すっかり慣れてしまったのですが、中にはこういうあだ名を軽蔑的に呼ぶ人も確かにいるのですよね(気にしませんが)。逆に親しみを込めて言ってくれる人もいるし、そういうのをいちいち気にしていたら仕方ないじゃん、中国人とか日本人とかわかるわけないしね、と私は思います。今回の件は差別のないところに差別を見てしまった過剰反応でしょうが、実際に不快に思う人もいるのだということはしっかり覚えておきたいと思います。

余談ですが、メキシコにはマリア・チューラというブランドがあるのですよね。保存食品なのですが、Codisraに教えてあげようかな。他にもやばそうなブランド名、グアテマラ国内にもありますけれどねぇ。

幸か不幸か、このニュースのお陰でマリア・アンドレアのマリア・チューラの方は一気に知名度が上がっていますから、当初Codisraが意図したのとは真逆の方向に向かってしまったような気もしますが。

民族衣装の意匠権とは

以前にも触れたことがありますが、「マヤの伝統的なデザインの保護」について、今日の新聞で取り上げられていたので、紹介したいと思います。

村ごとに異なるデザインを持つマヤの衣装ですが、その伝統的なデザインを工業的な商品に加工・販売している企業があります。「自分たちのアイデンティティでもあるデザインを勝手に利用して利益を上げている」ことにはマヤの、特に織り手さんから不満が上がっていると聞きます。

この記事は、マヤ弁護士協会の会長ソニア・グティエレス・ラグアイに、この件についてインタビューするという形で構成されています。

グアテマラには「工芸品の保護・発展に関する法律 (Ley de Protección y Desarrollo Artesanal)」という法律が1997年から施行されているのですが、ソニアさんによれば、この法律には先住民の共同体で織られる織物は工芸品だと定義されているものの、保護されていない。そこで、これをインディヘナの先住民の知的財産として登録し、保護しようとするのがソニアさんたちの目的です。そしてこの著作権及び意匠権は誰か一個人に登録されるのではなく、共同体の財産として登録しようというものです。

ソニアさん達の提案は、デザインを登録することで保護しようというのではなく、織り手さんたちの知的財産権が侵害されることがないようにしたいというもののようです。実際にパナマにはそのような法律があり、先住民特有のデザインを勝手に使うことができないようになっているのだとか。

2015年、マヤのカレンダーラウンドが新しいバクトゥンに入った年、「マヤが世界の滅亡を予言している」とか何とかでグアテマラへの観光客も増えたのですが、この年、観光庁(INGUAT)は伝統的織物等でQ7.5億の売り上げを記録したのだとか。しかし、これにより織り手さんたちに収入があったというわけではない。

ウィピルをバッグや靴などに作り直したものがヨーロッパなどで人気があるが、販売している会社に利益があっても、先住民の共同体には一銭も入らない。そういう状況を改善するために「先住民共同体の許可なく意匠を使用することの禁止」と、「先住民に関連する名称の商標登録を禁止」のために著作権法と知的財産法の改正を行う、というのが現在の目標なのだそうです。

もっとも、反対が多いから実現は難しいのではないかとソニアさんは思っているようですが。

デザインのように、時代とともに移り変わるものについて、誰に権利があるのかとか、どうやって利益を配分するのかとか、もう少し明確にした方が良さそうな部分はありますが、そうすることで織り手さんたちの収入が増え、織物をやる人が増えるのなら、結果としては良いでしょう。そんなにうまく行くのかな…という気はするのですが。

もう一つ、マヤはもちろん独自の意匠を持っているわけですが、同時に外から入ってきたものを取り入れるのもうまいんですよね。刺繍ですとか、バラの織り柄とかが代表的なんじゃないかな。そういう「伝統的」と言い切れないもの、むしろマヤが他を真似ているものについてはどうするんだろうとも思います。

ただ、マヤの織物、そのデザインの美しさは何とか守って欲しいし、今後もどんどん発展していって欲しい工芸品なのですよね。どちらかというと、問題なのは、その手間と価値に見合った価格で売買されていないことの方じゃないのかな。もちろん、先住民にとっては「洋服」でもあり、高すぎると着れなくなっちゃうという別の問題もあるんですが。

というわけで、考えれば考えるほどこんがらがってきて、結論がないのがとりあえずの結論というところで落着です。不甲斐ないですが。

イドロ・サンタ・クルス III 発端

ウエウエテナンゴ県はマヤ系の中でも多くの民族が混在しているところですが、サンタ・クルス・バリーヤスは元々カンホバル族(Q’anjob’al)の土地でした。面積は1,112平方キロでウエウエテナンゴ県内では最大。標高は1,450mですが、北部は標高は低く、暑い地域となります。

この地に水力発電所の建設計画が持ち上がったのは2007年のことだそうです。スペインのエコエネル(ecoener)社は再生可能エネルギーを利用した発電事業を行っている会社ですが、海外でも事業を展開しているようです。

グアテマラの電力事情について簡単に触れておきますと、1990年代前半までは国営事業だったのですが、1996年(アルスー大統領時代)に「電力基本法」が制定され、これにより電力事業への民間参入を容易にしたのでした。現在、発電は国と民間の両社によりますが、送電、売電は民間企業となっています。価格は国の機関である電力委員会(という名前だったかな)が3ヶ月ごとに改正するシステム。民営化されたことで電力供給は以前より安定していると私は思うのですが(グアテマラに来た年ちょうど水不足の年だったため、いきなり結構な計画停電を体験したのが未だに強烈な思い出です)、一方で電力消費の少ない世帯層からは電気の価格と不安定な供給に不満も多く、もう一度国営化してほしいと要望の多い分野でもあります。

さて、バリーヤスに水力発電所ができるらしい、と聞いた住民は当然不安に思います。電気事業への新規参入はエネルギー鉱山省の管轄になりますが、同省から地元へは何の連絡もなく免許が出されてしまい、住民たちは一体どんな発電所になるのかもわからず仕舞い。過去に、アルタ・ベラパス県にチクソイダムという国内最大規模のダムと発電所が建設された時、住んでいた人たちが土地を追われるなどしたことがあっただけに、同じような目にあうのではないかという不安は当然募ります。

そこで住民らは2007年6月23日に住民投票を実施します。住民13万人のこの町で、投票したのは46,490人、この内実に46,481人が発電所に反対票を投じたのでした。

なお、この住民投票(Consultas Comunitarias de Buena Fe)は先住民族が伝統的に実施してきた方法で、その効力は憲法、条例、さらには国連の先住民族の権利に関する宣言等で保障されているものです。

しかし、この投票にもかかわらず、発電所計画は着々と進んでいったのでした。

イドロ・サンタ・クルス II 位置

ウエウエテナンゴ県はグアテマラの北東部に位置しますが、サンタ・クルス・バリーヤス(Santa Cruz Barillas)は同県の北部にあります。以前取り上げたイシュキシスよりは南、北部横断道沿いになります。

上の地図の赤いマーカーがバリーヤス、青いマーカーはスペインのエコエネル社が水力発電ダムを進めているカンバラン川。市街地のすぐ側を流れている小さな川です。ズームアウトして頂ければ、国内の位置関係がわかるかと。

この町を二分することとなった水力発電ダム計画は2007年に始まり、今もなお対立が続いているといいます。

今日は遅くなってしまったので、ここまでにして、次回からこの話を取り上げていきたいと思います。